有頂天ホテル

hotel昨日は息抜きに街に出た。「有頂天ホテル」という映画を観賞。2〜3ケ月前に「笑いの大学」という作品をDVDで観て、日本映画界にもしっかりした脚本家がいるんだなぁと思っていたら、何とこの人、今や超売れっ子の三谷幸喜さんだということ。で、三谷さんの新作が封切られるというので、昨夜の観劇とあいなったわけである。

 わたしはいつも映画館に足を運ぶのはナイトショーなのだが、今回は1800円の正規料金を出しての入場。つまらんかったら映画館のシートにはなくそでも付けて帰ってこようと思ったが(失礼)、幸い作品は素晴らしく他人に迷惑をかけずに済んだ。三谷幸喜という監督さん、好きなジャンルではないが、とても才能があるんだなぁ。と改めて感心した。ポスト伊丹十三候補だな、こりゃ。

 この映画、普通の日本映画と違うのはカメラがよく動くこと動くこと。それも長回しのシーンがやたら多いということ。ワンカットワンカットが長く、その上、ストーリーの流れの中でいろいろな登場人物が絡み合うので、役者さんたちにかなりの緊張感が漂っているのが分かる。しかし、そのテンションが作品全体にピカピカした艶を与え、それぞれの役者さんたちの演技にもとてもいい影響を与えているように思えた。ただ、ウェイター役の川平慈英だけがチト力み過ぎ。普段から力んでいるキャラなのに余計力むものだから、台詞がカラ回りしていて芝居の流れにうまく乗れていない。でも、後の俳優さんたちの演技はおおむねみんなよかった。脚本や演出がいいとほんと役者も皆よく見える。役所広司は言うまでもないが、大物演歌歌手の役をやった西田敏行の存在感が結構すごかった。わぁ、こいつ、うまいわ。。登場して来て、台詞の第一声だけでそれが分かる。あと、オダギリジョー。いい味出してます。随分と笑わせていただきました。

 この作品は、あるホテルの大晦日の夜の数時間の出来事をコミカルタッチに描いたものだが、ほぼリアルタイムで23人の登場人物をめぐる物語がメリーゴーラウンド方式で展開されていく。様々なシーンにきめ細やかな伏線がほどこされており、こんな凝った構成は日本映画には本当に珍しい。三谷談によれば、かの米映画の名作「グランド・ホテル」を下じきにしたというが、テンポの早さとパースペクティブの切り替えの手法は、わたしの好きなポール・T・アンダーソンの「マグノリア」にヒントを得たのではないかと思われる。あと大ヒットTVドラマ「24」も少し入ってるかもしれない。23人の登場人物、誰が主人公というわけでもない。一人一人がすべて主人公であり、また脇役でもあるような、まさにモナドロジー・ムービーと呼べる作品である。欲を言えば、最後に何か仕掛けが欲しかった。画面のテンションが最後まで張りつめているので、あっと驚くようなドンデン返しがエンディングにあったならば、作品終映後ももっと余韻が残ったかもしれない。しかし、しかし、よく作ったものだ。。劇場にまた足を運びたくなるようなパトス的磁力に溢れたコメディ作品である。何はともあれ、日本映画が好きな方は是非、ご覧あれ。