SFノベル『Beyond 2013』(5) -NOA、および、ヌース理論-

 記録によれば、CETの初歩的な実験が最初に行われた場所は、「NOOS ACADEMEIA」と呼ばれる小さなカレッジだったとある。すでに気づいている者たちもいるかもしれないが、「NOOS ACADEMEIA」とは、わたしが現在、所属しているNOAの前身の呼称だ。後世の人々は、この「NOOS ACADEMEIA」が21世紀前半に行った作業を、旧約の登場人物であるNoahの所作になぞらえたのだ。

 NOAの草創期の研究者たちは、物質、生命と意識との弁証法的統合を目指す「ヌース理論」という宇宙論の研究者たちの集まりだった。彼らは、この「ヌース理論」を通じて、POS(プレアデス-オリオン-シリウス)回路のプロトタイプとなる「コーラ・ホール」を発見し、人間の思考力を光子-電子の位相振動や、DNAのヌクレオチド配列に直結させることに成功した。もちろん、初期のシンクロ率はかなり低レベルのものだったが、この成功によって、CETの具体的な技術化への扉が開いたことに変わりはない。
 POS回路は、20世紀末の物理学では11次元のM理論に原型があったが、それらが意識構造を示すものだと看破していたのはNOAの研究員たちだけだった。当時は、だれも素粒子世界の対称性群がDNAと共鳴しており、かつ、それらが人間の言語機能や認知システムと分かちがたく結びついているなどとは夢想だにしてなかったからである。
 
 詳しい記録は残っていない。が、おそらく、2001~2013年の間に、この「コーラ・ホール」の発見が起こることだろう。その発見が、CETの基本原理を確立させ、後のファーストキアスムをもたらす直接原因となる。
 繰り返す。2001~2013年の間に、この「NOOS ACADEMEIA」において、「コーラホール」の発見が起こる。そして、その発見は、地球規模の苦悩を解き放ち、人間精神が進むべき崇高なる道を切り開くことになるだろう。

 しかし、最後に一つだけ付け加えておかねばならい。実は、今まで話してきた内容は、確定した未来の出来事とは言えない。今の君たちには理解はできないだろうが、ファーストキアスム以降、時間の進行軸が逆転してしまっている。つまり、このアクセスは、はるか過去からのものとも言えるわけだ。もちろん、この時間の逆転は「コーラホール」の発見そのものによって引き起こされたものだ。だから、われわれの存在が必ずしも君たちの作業の成功を保証するとは限らないし、また、わたしのこの情報も、聖者たちの預言と同じく、正確さを欠いていることも十分にあり得る。

 しかし、しかし、だ。運命の車輪は回転し続けるほかはない。未来とは、不確定であると同時に、また確定的なものだ。人間が持った意識の方向性が、このまま変わることがなければ、地球のみならず、宇宙の全存在はおそらく消滅してしまうことになるだろう。そこでは、悠久の時を含め、すべてが何も起こらなかったことになる………つまり、虚無だ。
 この不連続質から逃れる道はただ一つ。人間の思考形態をOSP回路にジャックインさせ、CETを再び原-宇宙記憶の中からアロケートすること。永劫回帰を作り出せ。無限の未来と無限の過去とが、現在という「今」の中で結合するような真実の時間性を見い出し、その「今」に宿る物質の歴史を君たちの力を以て救済せしめるのだ。

 重ねて言う。救済されるべきは精神ではない。物質だ。是非、この点を見誤らぬようお願いしたい。なぜなら、今そこにある物質こそが、君たちの未来、ひいては、君たちの永遠の魂の姿に他ならないのだから………。

P.S. 
喜ばしい報告もある。
今やわたしたちは天使として生きている……
楽園で会おう。

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