夜明け前

空間には一次的な空間と二次的な空間がある。一次的な空間が奥行きで、二次的な空間が幅。というのも、奥行きナシでは幅なんて見えないから。人間の場合、なぜか幅が先手に来て、奥行きが後手に回ってしまっている。奥行きに幅をあてがって、奥行きが分からなくなってしまっているということ。

奥行きとは持続としての精神の場。つまり君自身。物質のすべては、この奥行きから作り出されているのだけど、幅が先手に回った意識にはこのことがまったく分からない。自分と物質なんて何の関係もないと思ってる。
だから、空間に3次元を見ている限り、人間は自分のことなど永遠に分からない。ほんとうの自分の亡骸を物質として見続けるだけ。自分に目覚めたいのなら奥行きに目覚めよう。そして、そこから世界を再構成していくこと。

「ずん!!」と一気に入ればいい、奥行きに。それによって初めて実像としての宇宙が君の前に現れてくる。姿も見えず声も聞こえないかもしれないけど、そこには過去のすべての死者たちが姿を変えて生きている世界がある。そうやって生者と死者を繋ぐイメージを作ること。秘儀参入の場なんだよ、奥行きは。

幅の空間世界から、この奥行きの空間の生態を事細かに調べているのが量子力学の世界だと思うといいよ。つまり量子力学というのは、奥行きの世界の詳細な地図になっているということ。そこでは奥行きと幅の関係が虚軸と実軸として表現されていて、奥行きに幅が従者のように付き従っている。
存在の外に疎外されていた人間が存在の内に入っていくという歩み入り。この風景が見えてくると、物理学者たちによる長年の営為の意味がはっきりと分かってくる。それは「存在の声に傾聴しながらそれを正しく守り言葉にもたらす」ことに努めてきたということ。ロゴスからプシュケーへの橋渡しだ。

あとはヌース(能動知性)の登場を待つのみ。世界は今、そのような状態にある。

夜明け前