僕はアメリカで暮らした経験はないが、made in USAの人間ドラマを観ると、あの国はやはり激烈な宗教国家なんだなぁといつも思ってしまう。多様な人種と多様な宗教、そして多様な文化。そこでは異質なものたち同士の接触や衝突が日常茶飯事のように起こっているわけで、こうした国に暮らす人々の精神は本当にタフだ。タフでいられるための信念や信条を何に依拠しているかとなると、結局のところ信仰心ということになるのだろう。あの国で無神論者を自称するにはよほどの勇気がいる。真の無神論者とは、命がけで「神は存在しない」と言える人を指す。その意味で、無神論もまた一つの信仰の体系なのだ。
5月 8 2006
エンジェルズ・イン・アメリカ
ストーリーは80年代半ばニューヨークに生きるゲイたちを中心に進んで行く。70年代にウォホールのファクトリーに集まってきたゲイ連中とは違い、このドラマに登場するゲイたちは、弁護士や看護士といったどちらかというとカタギの職業についているごく普通の男たちである。エイズに冒されて死を宣告されたゲイ、彼から去って行く恋人。モルモン教の家庭で厳格に育てられたために自らのゲイへの欲望を抑圧してきた若き弁護士、そして、欲求不満からドラッグ中毒となるその妻。彼らの間で繰り広げられる性愛や生と死をめぐる葛藤がときにシリアスに、ときにコミカルに淡々と描かれていく。極めてシリアスなテーマを扱っているのだが、随所に気の利いたユーモアがちりばめられており、役者たちの熱演も手伝って6時間という長丁場も全く苦にならなかった。腐ってもアメリカ。とても質の高いヒューマンドラマだった。
こうしたドラマをTVで放映することのできるアメリカという国に嫉妬を感じてしまうのは僕だけだろうか。グルメ番組やアイドル番組に占拠された日本のTVシーンではまずこうしたドラマは作られることはない。ゲイ、エイズ患者、ユダヤ教徒、モルモン教徒、それら社会的マイノリティーへの偏見と、共和党政権の偽善や環境破壊など、80年代、レーガン政権の下、「強きアメリカ」が抱えていた様々な暗部が、登場人物の吐く一つ一つの台詞の中に凝縮されてマシンガンのように連射されてくる。時折出てくる、シェークスピアの戯曲のように大仰な言い回しに食傷気味になることもあったが、合間に挟まれるシュールな演出が何とも笑えて、シリアスさとユーモアの畳み掛けのバランスが何とも言えない味わいを出していた。
僕はアメリカで暮らした経験はないが、made in USAの人間ドラマを観ると、あの国はやはり激烈な宗教国家なんだなぁといつも思ってしまう。多様な人種と多様な宗教、そして多様な文化。そこでは異質なものたち同士の接触や衝突が日常茶飯事のように起こっているわけで、こうした国に暮らす人々の精神は本当にタフだ。タフでいられるための信念や信条を何に依拠しているかとなると、結局のところ信仰心ということになるのだろう。あの国で無神論者を自称するにはよほどの勇気がいる。真の無神論者とは、命がけで「神は存在しない」と言える人を指す。その意味で、無神論もまた一つの信仰の体系なのだ。
神の在・不在の真偽は別として、結局のところ、人間は神について考えることなしに思考を進めることはできない。「現代日本人の精神」というものがあるかどうかはよく分からないが、もしあるのならば、その精神も早く開国すべきである。
「マグノリア」のような作品が好きな人は見て損はない。三本組なので、週末当たりに一気に観ることをおすすめする。
By kohsen • 09_映画・テレビ • 1 • Tags: ユダヤ