ハイデガーがいう「手許存在」をケイブコンパスで見る

ハイデガーがいう「手許存在」の背後にある空間構造をヌーソロジーのケイブコンパスを使って、ドゥルーズのいう「主観性の物質のアスペクト」に合わせて具体的に示してみよう。まず、手許存在は人間の調整質における感性=Ψ10の領域が送り出しているのではないかと予想できる(下図)。
 
主観性(感性)は自分の関心を引かないものを物から差し引く。つまり、見たい物しか見ない。これが、ドゥルーズのいう主観性の第一の物質のアスペクトというやつだ。ということで、始めよう。
 
今、僕の関心はテーブルの上の財布にある。妻からバースデープレゼントにもらったTAKEO KIKUCHIの革製の財布だ。使い始めて2年ほど経つから飴色に変色し、かなり渋みが出てる。今、この財布の持続空間を考えてみる。使い慣れた財布だからよく手になじむ。その質感はいつでも手のひらに蘇る(下写真)。
 
これがΨ1~2領域だ。Ψ1~2領域は時空でもあるが、外面側へと反転すると触覚の次元へと移ると、とりあえずは考えておくといい。触覚は尺度感覚(ユークリッド空間の感覚)と密接につながっている。
 
次に、この財布の視覚的イメージについて考えてみる。いつもジーンズの後ろポケットに差し込んでいるのて、裏側は黒く汚れていてあまり人には見せられない。表からは分からないが裏は汚い。それを僕の記憶は知っている。これがΨ3~4領域。
 
当然、この財布にはお金や各種クレジットカード、免許証などが入っている。昨年、免許証の更新を行ったとき、財布を受け付けカウンターに置き忘れて、焦って探し回った記憶が瞬時に蘇る。この財布と他の様々な事物との関係、さらにはそのときの僕の行動が作る意味のネットワーク。これがΨ5~6領域に当たる。
 
この財布を買ったのは街中のデパートだった。そのときに財布を丁寧に包装しながら、「お誕生日プレゼントですか?」と尋ねた中年の女性店員。そのときの僕たち夫婦のハニカミの表情と店員の微笑み―。財布を通して、他者との記憶の共有が呼び覚まされる。これがΨ7~8領域。
 
このように、観察子の内部には、知覚イメージ、情動イメージ、行動イメージ、他者との関係イメージというように、一つの財布をめぐって、さまざまな持続イメージの連続的な流れがある。
 
ハイデガーが言う道具分析における手前存在の意味を担っているのは、こうしたイメージの流れを担う内在野としての連続的多様体だ。
 
問題は、意識においてこうした働きを担っているのは、脳が云々ということではなく、素粒子構造(潜在的な観察子構造)そのものだということ。それがヌーソロジーの世界観の入り口となる。
 
素粒子が僕らの魂(無意識)の構造だというのは、そのような意味だと考えておくといい。

手許存在と主観性の物質のアスペクトの4段階
財布の持続空間