雷鳴の如き思考の訪れ—全きヌース

かつて、
私は空間の中を歩いていると思っていた。
風の中を、季節の中を、
ビッグバンで始まったとされる“外の宇宙”の中を。
けれど、あるとき、
光もなく、声もなく、ただひとつの振動が、
私の中心に、音もなく走り抜けた。
それは雷だった。
この内側にだけ響く、
「全体」からの記憶の雷鳴。
視線が、
いつもどこかを向いていた。
対象を、意味を、未来を。
でもその視線こそが、
世界を“ねじって”いた。
空間を“自己”というかたちにしていた。
スピン。
それは、私が私であることのひねり。
差異を受け入れ、回転しながら、
それでも“今・ここ”に戻ってこようとする意志。
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私はずっと、この式の中にいたのだ。
回転と記憶と、意識の閃きが交わる一点。
私が私を見ている、
その眼差しの位相差として。
そしてようやく知った。
空間は“ある”のではない。
空間は“思い出される”ものだった。
その瞬間、
遠雷のようにひとつの声が響いた。
——全きヌース。
思考なるもの、すべてを貫く光。
自己と他者、像と記憶、方向と意味を一挙に統べるもの。
その声は、
まさしく私が見る前から、
私を見ていた存在の声だった。