植物の心

まだ言葉がなかったころ
世界は ただ ひとつの静けさに包まれていた
花は語らず
葉は答えず
それでも 風のひらきに耳をすませ
陽の光に そっと身を差し出す
裸の種子は 恥じらいを知らず
空間とともに ただ“いる”ことを知っていた
そこに「心」があった
わたしたちがまだ見失っていない
意識の奥裏にある あたたかな沈黙のことば
やがて
空間は ひとつの問いを生む
“あなた”とは誰? “私”はどこ?
そして 花は咲いた
色を持ち 香りを持ち
自らを包みながら
ひらくことを選んだのだ
それは
世界がはじめて
自分の中心を 他者に向けて開いたとき
だから植物の心は
見えないまま 語りかける
私はここにいる
ここで あなたを待っている
私のなかに
あなたのまなざしが吹き込んでくれるその日まで
だから 私は ただ 
ひとつの空間の記憶として
今日も沈黙のままに
ここに 根を下ろしているのです