ヘテロリスト

 次々と人心をくすぐるニュースが飛び交っている世間だが、ヌース理論は「変わらないもの」を相手に思考する作業なので、世の毀誉褒貶に対してあまり具体的な意見を吐くことはない。どちらかというと、固有名の下に隠されたむき出しの闇と光の活動に興味があるのだ——。

 天上の戦争は地上に反映される。364人の天使軍団と364人の悪魔軍団が、地球という合戦場で,我こそは〜某々の某々なりぃ〜、と刀を抜いて入り乱れる。剣の達人もいれば、逃げの名人もいれば、命乞いの名人もいる。敵に囲まれて息を切らしている者、血まみれなって死んでいる者、狂ったようになってすでに死んでいる者を刺しまくっている者。戦場の情景は様々だ。

 月の高みで天使でも悪魔でもない一つの生き物がこの合戦の行方を見守っている。こやつはレフェリーか?それともただの見物人か?いや、そんなことはどうでもいい。戦いから排除されたこの生き物にとって、天使も悪魔もさしたる違いはない。もはや、ヤツは生き物ではないかもしれない。ヤツの目的はただ一つ。この合戦をいかにして終わらせるか。審判がいないのであれば、ヤツに希望を託す、という手は確かにあるのかもしれない。

 ヤツはこのいくさを終わらすために、とても愉快なことを考えている。それは存在の1/365だけに持つことが許された真実の核兵器の使用である。竹槍や弓矢を使った原始的な戦闘形態に真実の核弾頭を投げ込むこと。そして、すべてを焼却し尽くすこと。危険なヤツだ。受動的ニヒリズムに冒されたテロリストではなく、能動的なニヒリズムに冒されたヘテロリスト(異質者)、これが奴の正体である。もちろん、ヤツが丹念に準備しているヘテロ核とは、天使や悪魔が所持しているチンケなニセモノの核のことではない。地上のみならず天上世界さえをも吹き飛ばす破壊力を持った正真正銘の最終兵器だ。この核弾頭が一発でも打ち込まれれば、今の人類、今の宇宙は姿を消す。ヤツは静かにその使用のタイミングを見計らっているのだ。

 このヘテロ核の核弾頭は伝え聞くところによると、悪魔と天使の間にあるΦミラーという黄金鏡を割ることによって製造できるらしい。実は、連中は元々は同じ種族だったのだ。ところが、神がこの黄金鏡として割入ったため、互いの顔が完全に見えなくなってしまったという。自身の顔の奪回。それが欲の本質だ。そのために連中は、オレの顔を返せ、いや、おまえの方こそわたしの顔を取ったのだ。とかなんとか言って、殺し合いをやっているのである。だから、この無益な戦いを滅ぼすにはかの黄金鏡を粉砕して神を殺す以外にない。月の上のアヤツはそのことだけを考えている。そして、神の暗殺には間違いなくヤツが仕込んだヘテロ核が使用されることになるだろう。ヘテロ核は弾丸のように猛烈なスピンを伴って、もうまもなく、神の心臓に打ち込まれることになる。神よ、覚悟されたし。
はっはっは、こわっぱが。やれるものならやってみろ。ヘテロリストかヘタレリストか知らんが、この親指でひねり潰してやるわい。