『アクロス・ザ・ユニバース』

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 久々にDVD評を書きたくなった。なぜって、全面ビートルズの楽曲を使ったミュージカル映画『アクロス・ザ・ユニバース』を見たからだ。

 いゃあ、僕らの世代にとっては純粋に理屈抜きに楽しめる作品だった。僕自身は60年代は小学生だったので、カウンターカルチャーの波をライブで経験したとは言い難いのだけど残り香ぐらいは嗅いだつもりでいる。中学2年生のときに見た『時計仕掛けのオレンジ』(監督S・キューブリック)と『イージーライダー』(監督デニス・ホッパー)に衝撃を受け、大の映画ファンになった僕は当時、ロックも大好きだったことも手伝って、ロックミュージカルには目がなかった。
『ヘアー』『ジーザス・クライスト・スーパースター』『ゴッド・スペル』『ロッキー・ホラー・ショー』『ファントム・オブ・パラダイス』『リトル・ショップ・ホラーズ』etc……
おそらく、80年代までに作られたロックミュージカルのジャンルに入る作品はすべて見ているはすだ。中でもダントツに好きだったのがケン・ラッセルが監督した『トミー』(『トミー』は台詞部分が一切ないので正確には「ロックオペラ」と呼ばれる)だったんだけど、彼のPOPな前衛性とほどよい狂気は当時の僕の感性にピッタリとフィットしていた。

 さて、この『アクロス・ザ・ユニバース』だが、監督はミュージカル『ライオンキング』でトニー賞を獲得したジュリー・テイモアという女性だ。ジュリー・テイモア?どこかで聞いたことがある名前だと思ったら、10年ぐらい前にシェークスピアの『タイタス』を映画化したお姉さんだった。映画『タイタス』は美術と演出に惹かれて映画館、DVDを含めて4度ぐらい観た作品だが、やっぱり、この人才能あるなぁ。ケン・ラッセルやアラン・パーカー(ピンク・フロイドの『ザ・ウォール』を映画化した監督)の手法をかなり研究した映像表現に70年代のポップカルチャーが放つ独特の艶っぽさを改めて再確認させられたような気分になった。やっぱりわしは70年代が好き!!

 こういう作品が出てくると、必ず自称ビートルズ通の連中がしゃしゃり出てきて何かと酷評するものだが、そういう連中には「なら、おまえやってみろ」と一言いってやるとよい。ビートルズの音楽を映画に取り込むことがいかに勇気がいる賭けであるかを彼らはほとんど理解していない。
ビートルズの楽曲というのはファンたちの思い入れを含めて楽曲のみでその世界が100%完結しているものが多いので、ヘタな映像をカップリングさせても音楽の方が必ず勝ってしまって、曲のBGMにしかならないのがほとんどなのだ。いや、素晴らしい映像表現を持ってきたとしても事情はたぶん同じだろう。結局は、神話的な力を持ったビートルズの音楽の方が勝ってしまう。
この作品は、そのことを十分に承知した上で、それを逆手に取って、映像やストーリー立ては楽曲のパロディーで良いという割り切りがある。それは登場人物の名前の付け方や台本の随所に入る台詞、そして、ラストシーンからも明らかだ。その思いっきりの良さが、この作品をとても後味のよい作品に仕立て上げている。ビートルズファンとしても、ロックミュージカルファンとしても、ジュリー・テイモアの勇気ある挑戦に拍手を送りたい気分だ。ビートルズが好きな人は必見の作品です。娯楽性、芸術性、音楽、役者たちの演技と歌唱力(出演者全員が吹き替え無しのライブ録音らしい。向こうはやっぱり役者の質が高い)すべて含めて、文句なしに★★★★★。BONOとジョー・コッカーも出てるよ〜ん。

予告編はこちら→『アクロス・ザ・ユニバース』
Come Together
I want you
Being For The Benefit of Mr. Kite
Let It Be
Strawberry Fields Forever