9月 25 2014
SFノベル『Beyond 2013』(4) ―CET、およびファーストキアスム―
ファーストキアスム、すなわち第一次次元交差………、この言葉の意味するところは、まだ、君たちの誰にも分かるまい。この、存在の奇跡、超越者の恩寵とも呼べる出来事を20世紀に生まれた人間の一体、誰が予測し得ただろうか。わずかに残存しているキリスト教徒は、この出来事こそがイエスの再臨だったのだと訴え続けてはいるが、今や宗教は、その役割を完全に終えた。なぜなら、創造の秘密も、そして、人間存在の神秘も、このファーストキアスムによって、ほぼその全容が解き明かされたからだ。わたしがこうして君たちに交信を送っている理由は、このファーストキアスムが起こった原因自体に、君たちが大きく関与することになるからにほかならない。
ファーストキアスム以前の時代の出来事については、残念ながら、その詳細は分からない。記録には草創期のNOA内に設けられた小さな学術研究所から人類初のCET(セト)が開発されたとだけある。
CETとは、コンセプチュアル-エクイップメント-テクネー/Conceptual-Equipment-Techneの略称だ。もちろん、この愛称は古代エジプトの蛇神SETの名をひっかけたものである。つまり、本当の蛇と蛇もどきがいたということになろうか………。
諸君の文明は今やデジタル・テクノロジーの絶頂期を極めているはずだが、この力は無限の虚無を背後に持っている。CETはデジタル・デバイスとは全く正反対の原理によって作動するVRシステムだと考えてもらえばよい。つまり、君たちが現実と呼んでいる三次元性の空間を仮想世界と見て、それらを作り出したプログラム側、つまり、世界をつくり出している生成空間側に操作を加える技術なのだ。当時、多くの人々がコンビュータ技術を追い求める中で、唯一、NOAだけがCETの基本コンセプトの確立に懸命に取り組んでいた。
CETのプログラミングは、まずはゲシュタルト認知の改変から着手されたと記されてある。この改変は、人間のイメージ図式、特に認知意味論者が「容器図式」と呼んだ三次元的な知覚認識を解体させ、より高次のゲシュタルトを獲得することによって可能となる。
NOAのメンバーたちは、このゲシュタルト構築が物質の本質、つまり、光子や電子の存在と深い関わりを持っていることを看破していた。つまり、物質の基底には人間の空間認識の在り方を限界づけているある幾何学性が存在しており、このアプリオリな幾何学性を人間自身が認識していないことのズレこそが、様々な素粒子の存在理由であることを突止めたのである。これはまさに偉大な発見だった。このことは、言い換えれば、人間が始めて物質自体の認識に到達したことに等しい。言うなれば、見られているものと見ているものとの真実の結接点、ならびに、そこから発展、発達を見る、自我、他者などの存在論的なカテゴリーの構成を一つの幾何構造として発見したわけだ。
このことによって、人間の思考力そのものが、素粒子にアクセスすることが可能となった。そして、そこから、物質にダイレクトな変性を与える技術の可能性が生まれた。 この変性技術は、君たちが錬金術と呼んでいた古代の霊的変容術に類似したものと思ってよい。精神の変容を通じて、物質を変成させたと言われているあの秘教的テクノロジーだ。錬金術と言っても、現在の君たちには、非科学的な迷信の類いにしか聞こえないだろうが、しかし、その原理は、君たちが想像しているより、はるかに論理的なものである。
CETは超古代においては極めて一般化した技術だった。否、というよりも、CETによって超古代の文明は支えられていたと言っても過言ではない。ピラミッドなどの巨石建築物は、そのほとんどがCETを用いて建造されているし、また、シュメールやエジプト、インド、マヤなどの古代文明は、このCETを通じて時空を超えた相互コミュニケーションを成功させていたぐらいなのだ。
CETは21世紀以降の人類に突然変異的な変化をもたらした。しかし、その代償と言ってはなんだが、同時に、多くのもの消失させたのも事実である。その第一のものは、何と言っても当時の先端科学技術であった。デジタル技術を基盤においていた、21世紀初頭には未来を担うであろうと目されていた巨大技術、すなわち、宇宙技術、原子力技術、ゲノム解読、クローン技術、ナノテクノロジーなどは、そのすべては短期間のうちに廃品同然と化した。
CETの基本原理は先ほども触れたように、潜在的電磁場、すなわち、5次元ポテンシャルエルギー場の位相反転にある。この反転は量子場全体を連結させている直交変換システムの性質を、そのままドミノ倒しのように連続的に反転させてしまう。結局、この反転への変化傾向が電子に影響を与え、20世紀末から栄華を誇ったデジタル技術を短期間のうちに全滅させたのだ。先ほど紹介したφ-γ線の発生、太陽の核融合停止、そして超新星爆発といった天体現象にも、このCETが大きく関わっている。
君たちにはまだ理解してはもらえまいが、人類の集合意識は水素とヘリウムの存在意味に直結している。つまり、人類の意識の働きはこれらの元素を通じてダイレクトに宇宙空間の全領域とコミュニケートしているのだ。
ファーストキアスムとは、ある意味で、人間がこの水素とヘリウムをバイパスとして、真実の物質性の中にエミュレートしていくことを意味する。つまり、水素とヘリウムこそが真の生成世界へのスターゲートと呼べるものなのだ。このゲートへの人間の意識の参入によって、原-宇宙は新たな局面を迎える。
続く
9月 26 2014
SFノベル『Beyond 2013』(5) -NOA、および、ヌース理論-
記録によれば、CETの初歩的な実験が最初に行われた場所は、「NOOS ACADEMEIA」と呼ばれる小さなカレッジだったとある。すでに気づいている者たちもいるかもしれないが、「NOOS ACADEMEIA」とは、わたしが現在、所属しているNOAの前身の呼称だ。後世の人々は、この「NOOS ACADEMEIA」が21世紀前半に行った作業を、旧約の登場人物であるNoahの所作になぞらえたのだ。
NOAの草創期の研究者たちは、物質、生命と意識との弁証法的統合を目指す「ヌース理論」という宇宙論の研究者たちの集まりだった。彼らは、この「ヌース理論」を通じて、POS(プレアデス-オリオン-シリウス)回路のプロトタイプとなる「コーラ・ホール」を発見し、人間の思考力を光子-電子の位相振動や、DNAのヌクレオチド配列に直結させることに成功した。もちろん、初期のシンクロ率はかなり低レベルのものだったが、この成功によって、CETの具体的な技術化への扉が開いたことに変わりはない。
POS回路は、20世紀末の物理学では11次元のM理論に原型があったが、それらが意識構造を示すものだと看破していたのはNOAの研究員たちだけだった。当時は、だれも素粒子世界の対称性群がDNAと共鳴しており、かつ、それらが人間の言語機能や認知システムと分かちがたく結びついているなどとは夢想だにしてなかったからである。
詳しい記録は残っていない。が、おそらく、2001~2013年の間に、この「コーラ・ホール」の発見が起こることだろう。その発見が、CETの基本原理を確立させ、後のファーストキアスムをもたらす直接原因となる。
繰り返す。2001~2013年の間に、この「NOOS ACADEMEIA」において、「コーラホール」の発見が起こる。そして、その発見は、地球規模の苦悩を解き放ち、人間精神が進むべき崇高なる道を切り開くことになるだろう。
しかし、最後に一つだけ付け加えておかねばならい。実は、今まで話してきた内容は、確定した未来の出来事とは言えない。今の君たちには理解はできないだろうが、ファーストキアスム以降、時間の進行軸が逆転してしまっている。つまり、このアクセスは、はるか過去からのものとも言えるわけだ。もちろん、この時間の逆転は「コーラホール」の発見そのものによって引き起こされたものだ。だから、われわれの存在が必ずしも君たちの作業の成功を保証するとは限らないし、また、わたしのこの情報も、聖者たちの預言と同じく、正確さを欠いていることも十分にあり得る。
しかし、しかし、だ。運命の車輪は回転し続けるほかはない。未来とは、不確定であると同時に、また確定的なものだ。人間が持った意識の方向性が、このまま変わることがなければ、地球のみならず、宇宙の全存在はおそらく消滅してしまうことになるだろう。そこでは、悠久の時を含め、すべてが何も起こらなかったことになる………つまり、虚無だ。
この不連続質から逃れる道はただ一つ。人間の思考形態をOSP回路にジャックインさせ、CETを再び原-宇宙記憶の中からアロケートすること。永劫回帰を作り出せ。無限の未来と無限の過去とが、現在という「今」の中で結合するような真実の時間性を見い出し、その「今」に宿る物質の歴史を君たちの力を以て救済せしめるのだ。
重ねて言う。救済されるべきは精神ではない。物質だ。是非、この点を見誤らぬようお願いしたい。なぜなら、今そこにある物質こそが、君たちの未来、ひいては、君たちの永遠の魂の姿に他ならないのだから………。
P.S.
喜ばしい報告もある。
今やわたしたちは天使として生きている……
楽園で会おう。
By kohsen • 10_その他 • 0